コラム

70代の親をもつFP研究会

親が認知症になったら、銀行口座からお金が引き出せなくなるってホント?

70代の団塊世代を親にもつ団塊ジュニアの一人、黒木るみです。

70代の親をもつ子にとって、親が元気なうちは一切関与しないけど、
親が認知症になり、判断能力がなくなってしまった場合、
子がしなくてはいけないことの一つに「親の資産管理」があります。

例えば、判断能力を失ってしまった親に代わって、子が生活費、病院や介護施設への支払いのために親の銀行口座からお金を引き出す必要があります。
その際、もしお金が引き出せなかったら、お困りになりませんか?
「70代の親をもつFP研究会」としては、そうならないように事前にできる対策を調べました。

全国銀行協会から発表された認知症口座の凍結と払い戻しの考え方

金融機関では最近顧客が認知症になったときの対応が課題となっています。
2021年2月18日に全国銀行協会が『高齢者との金融取引、親族等の代理に関する考え方』を発表しました。
この件について、顧客向けに「預金者ご本人の意思確認ができない場合における預金の引出しに関するご案内資料」を作成しています。
このご案内資料わかりやすいです。

今般、一般社団法人全国銀行協会は、『預金者ご本人の意思確認ができない場合における預金の引き出しに関する案内資料』を作成いたしました。

表面には、預金のお引き出しには、原則として預金者ご本人の意思確認が必要ですが、預金者ご本人の生活費、入院や介護施設費用のために資金が必要でお困りの際には、まずは、お取引銀行へご相談いただきたい旨を記載しております。

また、裏面には、「人生100年時代に備えたい、これからの準備」として、資産の整理、地域の公的サポートの活用、銀行の独自の代理人制度や財産管理サービスの検討をおすすめするとおともに、成年後見制度について紹介しています。

『高齢者との金融取引、親族等の代理に関する考え方』 www.zenginkyo.or.jp/news/2020/n032601/

2年前に「親が認知症になっても慌てない知識とお金」のセミナーを開催した際に金融機関を回って、
実際に窓口でどんな案内されるか、調査したことがあります。
はたしてその後、銀行窓口での対応はどう変化しているのか、またまた調査に行って参りました。

私自身が顧客の立場で岡山市内のメガバンク2行、都市銀行3行、信金1行の銀行窓口で調査しました。

私の現状は以下のように説明。
・70代半ばの母(まだ元気)
・父はすでに他界
・母の資産に関する情報は全く知らない
・インターネットで「認知症になったら、口座からお金が出せない」という記事を読み、心配になる

相談した内容は以下の2点。
・本当に認知症になったら、母の口座からお金が出せないのか?
・母が元気なうちにできる対策はありますか?


銀行で認知症の事前対策として案内されたTOP3

窓口に相談に行ってみると、銀行や行員によって、温度差がありました。
困らないように熱心に説明してくれる銀行もありましたが、
事前対策の説明もなく、認知症になったら「成年後見制度」するしかないという銀行もあります。

一番お金も手間もかからない対策は親のキャッシュカードの暗証番号を聞くことです。
大きな声では言えませんが、この案内が一番多かったです。
ただし、お金は下ろせますが、相続時に揉めないようにお金の管理を記録したほうがいいでしょうね。

また、親が銀行に行けないけど住所と名前を自分で書ける場合、
子が書類を自宅に持ち帰り、親が自宅で記入して、子が銀行に持ってくるという方法で手続きできる銀行もありました。
親も子も本人確認など手間はかかりますが、親が銀行に行けない状態の時には助かりますね。

代理人カードの作成

どの銀行でも勧められた対策が「代理人カード」です。

一般的な代理人の仕組みは親が元気なうちに子を代理人として金融機関に届け出て、「代理人カード」の発行をしてもらいます。
代理人カードは親のキャッシュカード同様、ATMで入出金が可能です。
親が認知症になっても、子は代理人カードで入出金ができます。
ただし、銀行によっては生計同一という条件付きの銀行もあります。

独自に窓口で代理人が出金できるようにする「代理人指名手続き」を行っている銀行もありました。
相談時もぜひこれらの手続きをして、認知症になった時困らないようにしてくださいと熱心に説明してくれました。
実際に困っている人が多いという現実を改めて感じます。

生命保険の活用

親が元気なうちに生命保険を使って、認知症になっても、子が使えるお金を確保する方法です。
主に、死亡保障と認知症・介護保障の保険を使います。

告知事項に該当しなければ、認知症や介護状態になったときに子が保険金を受け取る生命保険に加入。
受け取るタイミングによって、保険金額が保険料よりも増えます。
しかし、契約後すぐであれば、保険料よりも保険金額が減額する可能性もあります。

告知事項に該当する場合は、死亡保障の保険になります。
認知症・介護の保険と同様に受け取るタイミングによって、保険金額が保険料よりも増えることもあれば減ることもあります。

加入を検討する際はまず、保障が被らないようにするためにも、現在親が加入している保険をすべて確認することが先決です。

一時払い終身保険の場合、最初に保険料を払い込んでしまうため定期預金と同じように思っている方もいます。
しかし、タイミングによっては払った保険料よりも減額することもあるのが生命保険です。
大切な資産を減らさないためにも、加入するときは減額する期間内に解約することがないか確認してください。

信託サービスの利用

信託サービスは親が元気なうちに銀行で信託契約をします。
元気なうちは自分自身で資産管理をするけど、将来的に認知症や介護状態になった時に子に代理人として資産管理を任せるという仕組みです。

信託金額として、まとまったお金を動かすことになることや信託に手数料がどのくらいかかるかは確認が必要です。

認知症になった後の銀行の対応

前述した全国銀行協会の考え方を踏襲している銀行と「成年後見人制度」しかないという銀行にわかれた印象です。

銀行としての対応は原則「成年後見人制度」です。
銀行には預金者本人の意思が確認できない時には預金者の資産を守るための対応が求められるからです。

とはいえ、事前の対策を行っていない預金者が認知症になり意思が確認できない状態となった時にお金を引き出したり振込手続きができなくなると、
子が立て替えなくてはいけなくなります。
それはあまりにも子の家計への負担が大きいです。

全国銀行協会の考え方に沿って、医療費や介護費で支払いが必要な時や生活費など、
毎回請求書などを提示すれば子が親の口座から引き出すことができるという案内をする銀行もありました。

▷ 本人が認知判断能力を喪失していることを確認する方法としては、本人との面談、診断書の提出、本人の担当医からのヒアリング等に加え、診断書がない場合についても、複数行員による本人面談実施や医療介護費の内容等のエビデンスを確認することなどが考えられる。対面での対応が難しい場合には、非対面ツールの活用等も想定される。

▷ 認知判断能力を喪失する以前であれば本人が支払っていたであろう本人の医療費等の支払い手続きを親族等が代わりにする行為など、本人の利益に適合することが明らかである場合に限り、依頼に応じることが考えられる。

『高齢者との金融取引、親族等の代理に関する考え方』 www.zenginkyo.or.jp/fileadmin/res/news/news330218.pdf

上記のように、親の意思確認ができないことを複数のエビデンスで確認することが考えられます。
正直かなり手間がかかりますし、長期間になった時のことを考えると不安は残ります。
できれば、事前の対策をして、避けたいところですね。

成年後見制度

銀行が全国銀行協会の考え方に沿った対応をしない場合は成年後見人制度を利用するしかありません。

成年後見制度は2020年において利用者数は23万人に過ぎず、潜在的な後見ニーズのわずか2%しか利用されていません。
家庭裁判所の監督を定期的に受ける、第三者が成年後見人に選任された場合には、
その報酬(月額2万円程度)が継続的にかかるといった負担感の大きさから、利用が進んでいないという現状のようです。

まだまだハードルが高い印象です。

 

まとめ

親の老後を心配しながらも、なかなか切り出しにくいという方もいらっしゃると思います。
しかし、今回のお金の引き出しの件一つとってみても、親が元気なうちしか事前の対策を取ることはできません。

お金のことも含めて、親が元気なうちに
老後についてどう考えているのか、
何か不安や心配していることはないか、
じっくりと話を聞いてください。

必要な対策を考えるきっかけになると思います。

親と子のコミュニケーションが取れていてこそ、必要な対策を取ることができます。
自分達だけで難しいなと思ったら、家族で抱え込まずに、専門家に相談してください。
何かしら解決の糸口が見つかると思います。

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